「遅いわよ、ブレード。切っちゃうところだったじゃない」
予想に反して、その声に悲壮感はなかった。自分が死んだことを解っているのかいないのか、もしくは納得が行かずに道連れを求めて出てきたのか。真意は計り知れないけれど、そんなことはどうでもよくなった。
聞こうと思っていた様々なことが、の声を聞いた途端一遍に気化して消えた。
だな、間違いなく」
「そうよ」
「良かった。言いたいことがあった」
「最後に?」
「いいや。最後にはしない」
「…あなたも知ってるじゃない。私、「俺は」
「お前はどうか知らないが、俺はこのまま終わりたくない」
言葉を遮った勢いのままに言い切ると、回線の向こうで彼女が息を飲む気配がした。もう呼吸の必要すらないだろうに不思議なものではあるが。
ああ。
やはり駄目だった。口に出してしまうとどうしようもなく愛おしくて恋しくて、思うあまりに気が狂ってしまいそうだ。
けれどその胸のうちを伝えるための愛の言葉にとって代わるように、口から滑り出たのはごく単純なひとつの願い。



 俺も一緒に連れて行け」


「…冗談よね?」
「本気だ」
「バカ言うんじゃないわよ!」
「お前がいないと嫌だ」
「私だっていやよ! だけど、私はなにも、あなたまで道連れにするために掛けたんじゃないわ!」
「……
「…! 悲しげに呼んでも駄目!」
「寂しい」
「立場が逆でしょ!」
「連れて行ってくれないなら、自力でどうにかする」
刃物は自室に山ほど持っているのだから、やろうと思えば今すぐにでも。言いながら、なんという卑怯な言い分だと思った。
「みんな悲しむわ」
「昼間の俺ほどじゃない」
その言葉に返ってきたのは呆れたような溜息と、弱々しい肯定の返答だった。
「今は、どこだ?」


「基地のすぐ近く」

「今は、基地内よ。あなたの部屋に向かってるところ」

「…着いたわ」

「あなたの部屋の前にいるから、電話を切らずにドアを開けて」



「待ってた」